正体不明の声とどうむきあっていますか?
   統合失調症の認知療法からのアドバイス
  筆者;原田 誠一 国立精神・神経センター武蔵病院外来部長
 1)違う見方を考えてみると、気持にゆとりが生まれます。
 2)認知療法は『柔軟な考え方、違う受け止め方」を実現するのをお手伝い
      して、ゆとりを育てる方法の一つです。
 3)認知療法お試しのすすめ 
    「正体不明の声の悪影響」を減らすのをお手伝いする認知療法
 実例 イ)(ぜんかれん誌 7月号からの要約)
         20代の女性Aさん。10代後半発症以来「声」に悩まされてきました。
 、    ある時、筆者の「正体不明の声 治療のための10のエッセンス」を、親から渡され読んでみました。その感想は次のようでした。
                 「自分の体験と似た例が書いてあり驚いた」 「自分だけがこんな目にあっている被害者と思っていたが、こうして印刷物になっているからには、この様な体験者は他にもいるのかも知れない」 「今まではなぜ薬をのまなくてはならないのか分らなかったが、本にくわしく書いてあり納得できた」など。
もちろん、その後も「声」は止まったわけではありませんが、「声」の受け止め方が変り、治療への態度や家族との関係に、好ましい変化が見られました
 実例 ロ)(ぜんかれん誌 8月号からの要約)
20代の男性Cさん。20代初めに発症し、薬をのんで落ち着きますが、”良くなると薬をのむのをやめて、じきにぶり返す”パターンをくり返して来ました。 ある時調子を崩して、家族に暴力をふるってしまいました。
Cさんは家族と一緒に筆者が勤務する病院で、初対面の筆者に気持を話されました。「自分のことを周囲の人がいろいろうわさしている」 「内緒のことまでうわさになっているので、実際に誰かが見張っていて情報を広めているのだとわかります」 「家族しか知らない内容もうわさになっているので、家族もグルです」「他人や家族が何でこんなことをするのか、理解できません。やりきれないし、人間不信です」など。
Cさんの気持を聞いて家族も筆者も暴力に至った事情が合点できました。 その後、筆者が 「パンフレット」 で説明したところ、Cさんは半信半疑ながらも説明に耳を傾け、通院・服薬を約束しました。
        何回かの面接を経て、Cさんは気持の変化を次の様に伝えてくれました。
「声は薬をのんで聞こえなくなった。もしかすると元々実在しなかったのかも知れない」 「…とすると、自分は家族にひどいことをしてしまったのだろうか?」 「今でも回りの様子が時々気になるけど、”気にしない”と自分を励ませるようになりました。すると、じきにリラックスできます」 「家族や人間への信頼感が戻って来ました。」など。
Cさんはこの様に”病気の自覚”が深まり、その後の通院の中断はなく、後日アルバイト先でのストレスでぶり返した際にも、すぐ病院に相談に来て、調子を大きく崩すことなく回復できました。
 実例 ハ)(ぜんかれん誌9月分からの要約)
Dさんは20代に発症以来投薬を受けて来られた女性ですが、「自分の気持が他人に伝わってしまう」との悩みは40代になっても続いていましたので、主治医と相談の上、筆者の勤務病院へ認知行動療法の受診に来られました。
まず、自分の気持が伝わるとどんなデメリットがあるか整理しました。
@自分の気持が伝わること自体気味が悪く辛い。
A自分の弱点が他人につたわると他人から変な目でみられてしまい辛い。
Bこのおかしな経験が続くと自分自身がおかしな人間と感じられて、更に落ち込む。
この分析により治療者側の理解が深まり治療作戦が立て易くなりました。
次に、どんな時に自分の考えが伝わると感じやすいのか調べました。
@自分は声を出して言わないのに他人が自分の考えと同じ事をいう時。
A他人の中で一人でいる時。(会話して安心することができないため)
B自分がある場所に入った後他人が続いて入って来る時。
C周りの人と違和感を覚えて自分がどう見られているか気になる時。
病気が悪かった時、『考えが自分の頭からどんどん漏れる』という体験がありその  記憶の影響もあるようだとDさんは意見を述べられました。
以上の情報を基に、認知療法を徐々に進めました。
介入法
@人に伝わったという体験の確信度を数字で表現してもらいました。
この結果、Dさんの確信は徐々に半信半疑の状態に変っていきました。
A別の解釈の可能性を探るように勧め段々別の解釈もありうることに気付く様になりました。
BDさんと類似の体験を、一般の人もかなりしている事を伝える様にしました。 
例えば、 テレパシー体験を信じている人が5割近くいることを教え、考えが伝わると感じるだけでは、必ずしも病気とはいえない事を説明しました。
 実例 ハ)の続き (ぜんかれん誌10月分から要約…内容は9月分からの継続…
介入法
C他の人と一緒にいるときに感じる強い緊張や、低い自己評価の改善をめざしました。Dさんが認知療法で変ってきたことを示す実例をご紹介します。

★思考記録の例1;喫茶店で疎外感を感じた際の工夫
◎状況…家族と一緒に喫茶店に入ったが、何となくリラックスできず落ち着かない。
◎気分…怖い・不安・落着かない・苦しい。(いずれも90点)
◎初めの受け止め方(当初の認知)
…自分だけが他の客と違って目立っているからではないか?
◎工夫した違う受け止め方(冷静で適応的な認知)
…落着いて周りの様子を見ると、実際に誰かが自分を変な目で見ている様子はないようだ。実際に何かあったら、家族が一緒にいるから何とかなるだろう。
だから大丈夫!と自分に言い聞かせた。
◎気分の変化…不安・苦しさはかなり減った(90点→50点)。
少し安心して「気にしない、気にしない」と自分に言えた。

★思考記録の例2;コンタクトレンズをなくして自己嫌悪に陥りかけた際の対応
◎状況…コンテクトレンズの片方をなくしてしまった。
◎気分…不快・自分がいや・つらい(いずれも90点)。
◎初めの受け止め方(当初の認知)…なんてドジな自分だろう。病気でなければこんなことはしなかったはずだ。病気になってからこういうことが増えている。
◎工夫した違う受け止め方(冷静で適応的な認知)…なくしてしまったのは仕方ない。これから気をつければいい。朝眠くて頭が働かない時に、ついなくしてしまったのだし。
◎気分の変化…つらさ・自己嫌悪が減った(90点→65点)。気分転換できた。

こうして、Dさんは、少しずつ人中で感じる緊張が減り、自己評価も安定して、生活のしづらさがやわらいできています。
    
D苦手な状況をネーミングして対策を工夫してみました。
Dさんの苦手な場面の一つ「ある場所に自分が入った後、他の人が続いて入ってくる」を 「金魚のフン現象」とネーミングし、対策を工夫してみました。

★思考記録の例3;
◎状況…ある喫茶店へ入った後に、他のお客さんが続いて入ってきた。
◎気分…不安になり、調子を崩しかけた。
◎当初の認知…また自分の考えが伝わって、変に思われ、他の人たちがわざと入ってきたのだろう。
◎冷静で適応的な認知…伝わっているのかも知れないが、相手が何か言ってくるまで様子を見ようと思った。
◎気分の変化…何とか乗り切れた。今の自分でいいんだと思えた。
E不安や違和感を覚えた際の対処方法を工夫し、対応レパトリーを増やしました。
例えば、
●頓服薬をのんで一休みする。
●「大丈夫」などど自分を励ます。
●あわてずに周りの様子を観察してみる。
等の工夫・実践の中で、Dさんは少しずつ自信を回復し、症状へのとらわれも減ってきています。
FDさんの成功体験をスタッフが一緒に喜び、嬉しさやつらさを分かち合ってきました。
こうした経過とともに、最近はDさんの生活のしずらさが、かなり減ってきていますし、客観的な指標(症状の評価得点)も着実に良くなってきています。
「正体不明の声・ワークショップ」(7月・福島)での当事者からの思考記録のご紹介
◎状況…ディケアの部屋に入ろうとしたら、「ここに入るとよくないよ」と声が聞こえてきた。
◎気分…緊張(80点)
◎当初の認知…やはり、ディケアの部屋へ入ると良くないのだろう。
◎冷静で適応的な認知…本当の声ではなく、正体不明の声が言っているようだから、試しに無視してみよう。
そうしたら、入ってから実際に何もなかったし、ディケアのプログラムが終わってからも、よくないことは起きなかった。
◎気分の変化…緊張の減少(80点→50点)
 
筆者 原田誠一先生は、Dさんの思考記録と、ワークショップの思考記録に、金メダルを差上げたい気分であり、読者の皆様も賛成して下さいますね?と結んでおられます。
実例 ニ)(ぜんかれん誌11月号からの要約)
正体不明の声が、消えてから強迫症状に悩むAさん。
例えば、冷蔵庫のドアが本当に閉まったかどうか心配になって、くり返し冷蔵庫のドアを開閉する。家族に大丈夫だと言ってもらう。大きな音をたてて閉める等の不安を和らげる行為の実行をしていた。そこで、話し合い、情報提供、行動実験の結果。
冷蔵庫のドアには磁力を利用してしまるドアバッチンが用いられていて、冷蔵庫のドアに金属製のクリップがつくことを確認した。
以上の介入の後、Aさんは「磁力を用いたドアバッチンは信用できる」「ドアバッチンがあるなら確認する必要はない」と思った。そして、その後専門外来での計20回の認知行動療法で、見事強迫症状は大幅に減少した。

同じ筆者による幻聴・妄想への認知療法の応用を要約した小冊子をご紹介します。
 正体不明  ハンドブック
  治療のための10のエッセンス
    制作・発行 ; アルタ出版株式会社 
             TEL 03-5790-8600   FAX 03-5790-8606
      *この小冊子は アルタ出版のホームページから無料でダウンロードできます
        http://www.ar-pb.com