正体不明の声とどうむきあっていますか?第2回
      
 統合失調症の認知療法からのアドバイス
          筆者:原田 誠一 国立精神・神経センター武蔵病院外来部長

              「声」との距離のとりかた

         1)対処の仕方
     実例 イ)(ぜんかれん誌 8月号からの要約)
        数年間、心の声に悩まされてきた、31歳の男性Kさん。
       
何かをするとき、一方声では「これはしなくていい」といい、もう一方で
       「これはしなきゃ災いがでるぞ」という。幻聴・幻視が全くない。ただ心
       で声がする。俺は分裂している。その時そう思った。何か二つの意味
       があると思い、猜疑の心が働いた結果だった。医者に分裂病といわれ
       9年経った今も心の声がする。
       リラックスするにはどうしたらいいでしょう?教えて下さい。

      
答え:考えが二つに分かれるのは普通です。
       愛情と憎しみ、信頼と疑惑などの反対の感情・考え・意思などを同時に
       抱くことは、よくあることです。「両価性」とか「アンビヴァレンス」といい、
       これは病的な症状とはいえず、問題は心の声になっているということです。
       ここで幻聴の種類について説明します。
       @はっきり聞き取れる内容の「声」が外から聞こえてくる、
        一番ポピュラーなタイプ(幻聴ー明瞭・外界型)
       A外からでなく、心の中ではっきりと聞き取れる内容が
        「声」で聞こえてくるタイプ(幻聴ー明瞭・内界型)
       Bはっきりしないあいまいな内容が、外から声で聞こえてくるタイプ
        (幻聴ーあいまい・外界型)
       C自分の考えが、はっきりと外から聞こえてくるタイプ
        (思考化声ー明瞭・外界型)
       D自分の考えが、はっきりと心の中で聞こえるタイプ
        (思考化声ー明瞭・内界型)
       Kさんは、Dのタイプということになります。(Aの可能性もあります。)
       リラックスできる方法としては、
       @自分に合った薬をみつけて利用する。
        抗精神病薬は、色んな幻聴にきき、リラックスできる近道です。
       A症状の受け止め方と対処の工夫
        幻聴のひとつとして受け止め、「これをやっていると聞こえても楽だ。」
        「こうしているとあまり聞こえてこなくていい」
        などの対処の方法を、幾つか身につけるとよい。


     実例 ロ)(ぜんかれん誌 8月号からの要約)

       
ポジテイブでいたい28歳の男性。命令が聞こえてきます。
       
言葉で囁かれている様な感じで、たとえばこの投稿を書こうとした時
       「明日にしろ」。書くのに集中したくラジオを消そうとすると「ラジオを
       つけておけ」という、こんなことはざらです
       自分が、こうしたらいいという無意識の思いが「ことば」になる。
       こういう症状にも「認知療法」は効果がありますか。

      
答え:認知療法は、次の様に進めていくことが多い。
       @「命令」をどう受け止めていますか? 病気の症状と思っているか、
       よく知らない人の命令と受け止めているか、知っている特定の人の
       命令と感じているか、等を一緒に検討する。
       Aどういう時聞こえやすいか、どういう時聞こえにくいか?
       
時刻・場所・状況などはありますか?
       
例えば一人の時、他の人といる時、家にいる時、外にいる時、好きな事を
       している時、などで差がありますか?
       B聞こえる「命令」にどう対応し、結果はどうか?
       いつもは、大体「命令」に従ってるか、逆に逆らってるか。
       又、無視したりするとどうなるか?「声」と口論になることはありますか?
       聞こえた際、「これをしてると気が紛れ、とらわれなくてすむ」「こう対応
       すると楽だ」という方法をいくつ か持っっていますか?
       C以上をふまえて、どのような作戦をとると良いか考え、
       実際に試行錯誤してみるとよいです。
       どうでしょう、よかったら認知療法にトライしてみて下さい。
                     

          2)家族のゆとり
     実例 イ)(ぜんかれん誌 8月号からの要約)
       躁鬱病で現在通院中のKちゃん70歳(家族)
       
薬の作用で、発病直後の正体不明の声(自分をマインドコントロールした
       とある神父を憎み、「殺せ、殺せ」という)は少なくなったが、具合が悪く
       なると強く聞こえ、医者からカウンセリングを勧められています。だが、
       経済的余裕もなくまた、神父を、罵倒する言葉はどうしても消えません。

      
答え:次の事に気をつけて経過をみてはどうでしょう。
       @相談にのる際の工夫として、あわてずじっくり本人の気持ちをくむことが
       大切です。話をしっかり聞いて、罵倒する言葉を無理に消したり抑え付け
       たりせず、本人が落ち着いたところで、「殺せ」という声に従って行動しない
       よう約束をし、少しずつ対応作戦を考えていこうと誘う。
       行動化しない約束ができない時は主治医と相談し、休息入院を考えます。
       A相談できる人を増やす工夫します。家族・主治医以外の人で、病院の
       職員、福祉事務所の人、又は地域担当の保健師さんが相談にのってくれます。
       それ以外に、各都道府県にある精神保健福祉センターとかでも相談でき、
       電話相談もしている。
       よく相談して日頃から煮詰まらないようにしておくとよい。
       B生活の送り方の工夫として
       本人も家族も生活の中で楽しみ、満足、ゆとりなどを感じられることが多い
       とよい。本人の場合憎しみも和らぎ、こだわりも減り気持ちの整理も進み
       やすくなり、現在の生活はどれだけ満足いくものか、どんな希望願いがあるか?
       どう実現できるかなど。家族もゆとりのある接し方ができる
       様にするには、楽しみや、満足を持つとよいのです。

        自分の思いが素通し?サトラレ
       (サトラレとは、幻聴が他の人に聞かれていると思うことからくる病気)

     実例  (ぜんかれん誌 2月号からの要約)
       サトラレで10代から悩んできた43歳のJさん。最初は受験が原因でした。
       三年ごとに毎回1ヶ月の統合失調症の症状がでて、また正常に戻ることを
       繰り返してきて、27歳からは、毎日思いが筒抜けでしかも周りが反応
       
してくる、サトラレの様になりました
       自分の思い以外に思っている反対の言葉が出てきて嫌いな人を好きと
       言ったりします。思考化声明瞭内界型で、緊張を緩和する為にでてくる
       言葉だそうです。
        2年前6月に地元の医院で、リスパダールとピカモールを処方されてから、
       心の声は小さくなり、思いと反対の声も、周りの声もしなくなりました。しかし、
       依然として思いが聞える様な感じがする。家では、両親がきこえないと言って
       くれるのでリラックスできるが、仕事中(パソコンのインストラクター)そうなるので
       クラッシックを流したり、「鼻くそ女の私でも」と主語をつけたり、リスパダールを
       いつも飲める様にしています。
       以前の主治医が「1日仕事が終われば良しとしなさい」と言われ、嫌なことは
       忘れるようにしているのです。
       現在は休日に油絵を描いています。
      
答え:Jさんが、社会で活躍しながら生活を楽しんでおられる訳は
       @Jさんご自身の賢明さと工夫
       病気と症状に上手につきあっている。「自分の思いが聞かれている気がする」
       事に対して、音楽を流す。主語をつける。祈る。薬を用意する。と対処しています。
       又、両親の言葉をしっかり受け止め、自分で修正している。自分の思いに
       固執しない賢明さが素晴らしい。
       Aご家族や主治医のサポート。
       家族の優しいサポートが感じられる。そして、主治医も、「不愉快な症状が
       あっても、1日仕事が終われば良しとする」とか「反対の言葉は、緊張を緩和
       する言葉です」と良いアドバイスをしておられる。
       Bよく自分に合った薬との出会い。
        いろんな効果がでている。リスパダールは効果が強く副作用が少ない新薬
        (非定型抗精神病薬)です。
      
 受け止め方の工夫をしましょう。
       @両親や街中の人も平気なのだから、学校でだけ聞こえる訳がない。と思え
        ないか。  又、サトラレで悩んでいる他の人の考えも聞こえないから、自分
        のもそうだ。と思って楽に、授業をこなせないか。
       A困った考えや嫌いな名前のやり過ごし方。一般のひともいろいろな心配・
        雑念(侵入思考)を、しょっちゅうしている。困った考えにとらわれず「おかしな
        雑念がでたなあ」とこだわらずに、やり過ごせるからです。Jさんも、嫌いな虫
        の名前 とかも、何度も何度も確認して戻ってこないとするより、「これは消え
        ていく姿だから、さらっと流してしまおう。又出ても、さらっと流そう」くらいに、
        対応すると良いのではないでしょうか。